ピーター先生の話

学生とはなんてお気楽なのでしょう。


―――数日前の深夜、ラーメン屋での会話
「おまえんとこ、いつから授業再開すんの?」
「あぁ、俺昨日それ調べた」
「真面目だな。休み入る日にちは詳しく覚えてるのに、いつから始まるかとかは意外と知らないぜ、学生ってw」
「あぁ、呑気なもんだよw」
「で、いつから?」
「あぁ、えっと……あれ…あの…忘れたwww」
「ちょwwww」
「「…まあいっか」」


で、数日後のまさに今。ふと開いた手帳のおかげでとんでもないことに気付きました。
 今 日 か ら 授 業 開 始 。 


1限はピーター先生の英語です。
ピーター先生はイギリス生まれの萌え中年です。
一体どのへんが萌えなのかと言われると説明が難しい。
一言でいえば、ビビアンスーケインコスギを水洗いしたのち天日干し、一口大に切ったものに卵と小麦粉をまぶしてフィッシュ&チップスッって感じの萌え。


ヤツの操るカタコトジャパニーズは可愛い。
先ず、そもそも「ピーター先生」とは一人称である。
「ah-ぴたぁーせんせーisとってもやさしいせんせーネ」
どちらかと言えば「ぴたぁー」と聞こえなくもない。まあ大体こんな感じだ。
文章にすると途端に胡散臭いコントそのものになるから不思議だ。


ピーター先生はよく僕たちを励ましてくれる。
どんよりとした空気が充満した一時間目の授業。
徹夜マージャン明けか、二日酔いの最中か、はたまた彼氏とヤリ過ぎたか。
どの生徒も一様にぼんやりだらだらした空気を身にまとい、へどろのように机につっ伏している。


そんな生徒たちをピーターは励ます。
「ガムバリマス!」
「ガムバリマス!」
「ガムバリマス!」


お前ががんばってどうすんだよ。
ってきっと誰かに言われたのだろう。
ある日を境にピーター先生は「ガムバリマス」を言わなくなった。
僕はひとりピーター先生の「ガムバリマス(ときどきガンバリムス)」に萌えていただけに非常に残念だった。


英語を話すことに消極的で受験以降みるみる英語力が低下してゆく大学生たち。
皮肉にも彼らと対照的に、ピーター先生の日本語スキルはどんどん上達していった。
「スタ丼ください」
ピーターはいつのまにか学食でスタミナ丼ぶりを食すまでになっていたのだ。
はし使いも見事ながら、特筆すべきはそのイントネーションである。
流れるような流暢な日本語で「スタ丼ください」と言っていたのだ。
もはや彼は英国紳士の皮を被ったジャパニーズといっても過言ではない。


ティータイムが容易に想像できる。無論、紅茶にスコーンの英国式ではない。
番茶にハッピーターンのジャパニーズスタイルである。
あぁ、嘆かわしい!!


こんなことを考えながら机に突っ伏し、ピーター先生の授業を聞いていた時のことだ。
ポンポン。僕は誰かに肩を叩かれた。
顔をあげると、そこには、初老のイギリス人男性が立っていた。
「Ah-…ガムバレ!!」
「ガムバレ!!」
「ガムバレ!!」
「ガムバレ…マス!!」


なんか怖かった。
日本語を詳しく学んだピーター先生は、ちょっぴりだけ高圧的になったのだった(命令形を覚えたのか)。


結局、めちゃくちゃ流暢に発音するのは「スタ丼ください」だけだと言うことに気づいたのは割と最近のことだ。この辺の謎に関してはいずれ解き明かしたいと思う。


それでは、ピーター先生の授業へ出るための準備があるので、僕はこれで。
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